1989年(平成元年)4月20日、朝日新聞の夕刊一面に「サンゴ汚したK・Yってだれだ」とのタイトルで、沖縄の珊瑚礁に落書きがされているとの記事が掲載された。
記事の全文は以下の通り。
写’89 地球は何色? サンゴ汚したK・Yってだれだ
これは一体なんのつもりだろう。沖縄・八重山群島西表島の西端、崎山湾へ、直径8メートルという巨大なアザミサンゴを撮影に行った私たちの同僚は、この「K・Y」のイニシャルを見つけたとき、しばし言葉を失った。
巨大サンゴの発見は、7年前。水深15メートルのなだらかな斜面に、おわんを伏せたような形。高さ4メートル、周囲は20メートルもあって、世界最大とギネスブックも認め、環境庁はその翌年、周辺を、人の手を加えてはならない海洋初の「自然環境保全地域」と「海中特別地区」に指定した。
たちまち有名になったことが、巨大サンゴを無残な姿にした。島を訪れるダイバーは年間3000人にも膨れあがって、よく見るとサンゴは、空気ボンベがぶつかった跡やらで、もはや満身傷だらけ。それもたやすく消えない傷なのだ。
日本人は、落書きにかけては今や世界に冠たる民族かもしれない。だけどこれは、将来の人たちが見たら、80年代日本人の記念碑になるに違いない。百年単位で育ってきたものを、瞬時に傷つけて恥じない、精神の貧しさの、すさんだ心の……。
にしても、一体「K・Y」ってだれだ。
この落書きが、後に、朝日新聞の記者、カメラマンが、この記事のために書いたもので、記事そのものがまったくの捏造であることが判明し、大問題となった。地元沖縄県竹富町ダイビング組合から「サンゴに書かれた落書きは、取材者によるものではないか」 との指摘を受け、朝日新聞は調査に着手、取材に行き過ぎがあったことを発表した。
朝日新聞は、1989年5月16日の朝刊におわびを掲載した。その文中には「西表島崎山湾沖にあるアザミサンゴの周辺一帯に、いくつかの落書きがありました。この取材に当たったカメラマン2人のうち1人が、そのうちの「K・Y」という落書きについて、撮影効果を上げるため、うっすらと残っていた部分を水中ストロボの柄でこすり、白い石灰質をさらに露出させたものです。」とあった。もちろん、これもウソだった。
さらに「この取材は本来、自然破壊の現状を訴え、報道することが目的でしたが、この行為は、明らかにこれに反する行き過ぎであり、朝日新聞社として深くおわび致します。 」とあるが、「行き過ぎ」って、何だろうと思う。
1989年5月20日、朝日新聞は再度、朝刊にておわびを掲載した。「サンゴ写真 落書き、ねつ造でした 深くおわびします」とのタイトルは、読者にどんな印象を残したのだろう。
この事件から十数年後の2007年、「KY」は別の意味を付され、流行語となった。「KY」の本当の意味や語源をあれこれと想像してみるのも楽しい。
80s!